-恐怖夜話-


「香織、しっかりしろっ!」


バチンと言う音が耳に届いた瞬間、私の頬に猛烈な痛みが走った。


でも、その痛みも一瞬で消え失せてしまう。


「香織、あれは、亡者だ。騙されるな、自分の信じるモノを信じろ!」


私の両腕を掴み必死で叫ぶ東悟の声が、酷く緩慢な思考の中で、微かに届いたような気がした。


自分の信じるモノ?


私が信じるモノって何?


東悟は、早苗ちゃんを殺したの?


東悟は、沙希を殺したの?


「香織!」


強い力で抱きすくめられて、ハッと我に返る。


トクン。トクン。


力強く脈打つ東悟の鼓動が、Tシャツ越しに伝わってくる。


馴染んだタバコと東悟の匂いが、ふわっと鼻腔をくすぐった。