「な、んで? そんなバカな……」
東悟が、目に見えて狼狽していた。
沙希を、信じられないモノを見たと言うように、驚きの眼で凝視している。
それは、私が見たことが無いほど恐ろしい表情だ。
「東……悟?」
沙希が戻ってきたのに、どうしてそんな怖い顔をするの?
喜んでくれないの?
そう言おうと口を開きかけたとき、沙希の白い腕がすうっと上がった。
真っ直ぐ東悟を指さしている。
今まで穏やかだった表情が一変した。
上目遣いに東悟をにらみつける黒い瞳に、今までに見たことがないような厳しい光が宿る。
香織。
紡ぎ出された私を呼ぶ声も、固い意志を秘めたように厳しい。
その厳しさに、心の奧がざわついた。



