「四階建ての古アパートに、そんなモノないのさ。学校だって、エレベーターなんか付いてないだろうが?」
がはははっ。
体格と同じに豪快な父の笑い声が、コンクリートの階段室に虚しく響き渡る。
「ええ~っ!?」
マジですか!?
この糞暑い中、三階まで何往復上り下りをしなければならないのか目算した私は、軽い目眩に襲われた。
自慢じゃないけど、私は文芸部。
力仕事には向いてない。
『むうぅ』と、眉根に力がこもる。きっと、額には深い縦皺が出来ているに違いない。
そんな私の様子を見なくても分かるのか、「心配するな。会社の若いのが、手伝いに来てくれる事になってるから」と、笑いを含んだ父の声が飛んでくる。
「なんだ、そうならそうと、早く言ってよ~」
はあああっ。
よけいな汗かいちゃったじゃない、もう。
そのお手伝いさんが、一刻も早く来てくれることを祈ろう。
そう心から願いつつ、私は両親の後に続いて階段を上り始めた。



