ヒンヤリと、体温を感じさせない硬質の手の感触。


『クス、クス、クスっ』


耳元でハイトーンの笑い声が上がったと同時に、あれほど震えていた香の体から、スウッと力が抜けた。


嫌だ。


こんなこと、あるはずがない。


私は、ぎこちない動作で首を振った。


涙のしずくが顎を伝って、胸元を濡らしていく。


「市川……先生?」


ドアから入ってくる薄明かりに浮かび上がったのは、香じゃなかった。


私が、しがみついていたのは、


あの少女――。


黒いセーラー服、


細面の白い顔の輪郭、


赤い唇が、スローモーションで、ゆっくりと弧を描いていく。


『クスクス、クスっ』


「うぁ……っ!」