-恐怖夜話-


私は気付かないふりを決め込んで、そのままペタルを踏み込んだ。


正にその時。


『ビュン』と風を切って、ライトの丸い明かりの中を、右から左へ何か小さい黒い影が横切った。


轢いちゃう!


思うや否や、私は思いっきりブレーキを掛けた。


夜の静寂に響き渡るブレーキ音。


一瞬の無重力感が体を包み込んだと思った刹那、派手な音を立てながら、私は自転車もろとも砂利道に倒れ込んだ。


「っ……」


くらくらと世界が回っている。砂利道に、もろにスライディングをかましてしまった。


顔面から突っ込むのだけは避けられたけど、したたか打ち付けた膝と肘は被害甚大で、ズキズキと鋭い痛みが脳天を直撃する。