「お化けなんてないさっ。お化けなんてうそさっ」
私は、幼い頃から怖いときには決まって歌う童謡を、ペダルを踏むリズムに合わせて口ずさみながら、頼りないヘッドライトだけを頼りに自転車を走らせていた。
こわばった頬を凍えるような冷気が叩き、雑木林の黒い木立ちが飛ぶように視界の端を過ぎていく。
見える範囲に、まだ民家は無い。
速く。
もっと速く。
まるで何かに急かされるように一心不乱にペダルをこぐ私の視線の右端で、『チラリ』と、白いものが動いた。
うわっ……なに?
ドキリと、鼓動が早くなる。
暗闇にチラチラ浮かぶ、白い影。
見ない見ない、何も見ない見えません。



