警察なんか、もちろんいない。 スリはあたしの声に反応し、バッグを残して走り去って行った。 「あの……、ありがとうございます」 「よかった。バッグが戻ってきて」 親切な男の人は、自分のことのように喜び、あたしにバッグを渡した。 「本当に……、ありがとうございました」 「いやいや、君の機転には俺も感謝するよ。ありがとう」 にこり、と笑う顔が、あまりにも爽やかで。 晃司という遊び人の彼氏と別れたばかりのあたしにとって、その笑顔は新鮮に感じた。