直樹さんから電話がかかってきたのは、その日の夜で。 あたしが予想していたよりも、ずいぶんと早かった。 『それじゃ明日、駅前で』 「はいっ」 『バッグはしっかり抱えておいてよ』 「……はい」 電話のあいだ、直樹さんは“奈津ちゃん”とあたしのことを呼んでくれた。 あたし、たったそれだけで、すっかり舞い上がってしまって。 頭の中はあっという間に、直樹さん一色になってしまった。 ……晃司? あぁ、そんな男、いたわね。 そう嘲笑できるくらいに、晃司の存在なんて忘れていた。