テディベアはしゃべらない

「ひとつ訊くが」

黒い、海賊の宝箱のようなそれの中身は、私からは見えません。

「お前、なにが楽しくてそんなに笑ってるんだ?」

「なにが、楽しくて?」

そんなの、決まってます。

人の笑った顔、人の喜ぶ顔、人の嬉しがる顔、人のはしゃぐ顔。

みんな、笑顔が大好きです。

そしてみんな、私が笑顔を見せると喜んでくれます。

だから――

「なにがもなにも、笑顔でいれば、楽しいからですよ」

答えなんて、それ以外、ありえませんのに。

「そうか」

という壮馬くんの声は、バタンと閉められた木箱の音に、半分消されていました。

カラスのようにつややかな黒眼が、言ってきます。

「それならいい。ユウ、お帰り願え」