『木々の間から差し込む光…美しい空気の中で、王子は彼女を見つめていた。
彼女は、親の勧める美しい姫ではない。しかし、王子の瞳は彼女以外を映す機能など、とっくに停止してしまっていた。
「愛してる…」王子が呟くと、彼女は驚いた後、嬉しそうに王子の腕の中に走った。そして2人は幸せに…』

響くキーボードの音、画面に映しだされた文字。そこまで打って、助手は溜息を付いた。

「素敵…一目見た時から惹かれ合っていたんですね~……いたっ!」

小気味良い音を鳴らして博士が助手の頭を叩いた。助手が恨めしそうに顔を上げると、顎でそこをどくように促された。代わりに椅子に座った博士は言い放った。

「バカだな、お前は。」
「…断定ですか…」
「いいか?本に書かれているそのままのことを見に来た訳じゃないんだぞ。ここに書かれていない真実を見ろ。」

キーボードを操作し、撮り溜めた資料映像を流し始める。

「一見、この2人は一目で恋に落ちたかの様に見えるが、実は違う。事前の出来事から容易に説明が付く。まずはこの女…」

画面に1人の女性が映る。王子と結婚するはずの姫だ。

「美人で気も利き、王子の親からも慕われ、完璧だ。結婚相手となる可能性は多いにあった。一方、彼女は…」

2人目の女性が映る。庶民の内の1人に過ぎない女性だ。

「美しいが貧しく、勝ち気で意地っ張り。可能性は全くもって低い。しかし、数年前にこの2人は1度出逢っている。
幼少期に森で迷子になった王子を彼女は助けた。彼女の優しさと強さに触れた王子はその後、生き方を大きく変えている。
つまり、その面影を追っていた王子が彼女を選ぶ可能性はより大きい。で、結論だ。

<恋愛の結末は運命なんぞで決まるものではなく、可能性のより大きい方に流れる>!!」

博士は満足したように笑い、助手は呆れかえった。

「そんな無理やり…タイムマシン作って、可能性の浸透圧ですか…」
「いかん!事実を受けいれろ!この結論は紛れもない真実だ。よって…
俺がフラれたのも『運命の人に出逢ったから』なんて事はありえん!きっと幼少期に何か理由が…」

「博士…事実を受けいれましょうよ…
っていうか、自分が悪いとか思わないのか、この人は……バカだな。」