カタカタと木製の車体にはめ込まれた窓が音を立てる。
でも、怖い音ではない、タタンタタンと列車の音とデュエットしているように楽しげだ。

「うわぁ~すご~い。はやーい。」

ゆきは目を輝かせて窓から顔を出す。
優しい風が顔に当たり、おでこは全開、2つに結んだ髪はぴょこぴょこと楽しそうに弾んでいる。

「おや、まあ、珍しい。人間の女の子よ。」

後ろからの声にゆきが車内に視線を戻すと、2人のおばさんがこちらを見ていた。
1人はアライグマ。もう1人はタヌキだ。
ゆきは2人に向かってぺこりと頭を下げた。

「こんにちは。」

「はい、こんにちは。お嬢ちゃんお名前は?」

「ゆき!」

ゆきが元気に答えると、おばさん達は、ニコニコとゆきの向かいの席に腰を降ろした。
動物でも、おばさんというのは好奇心旺盛で、訳アリだと首を突っ込むものらしい。
今まさにゆきへの質問タイムが始まろうとしているその時、ゆきのポシェットから勢い良くパウロスが飛びだした。

「こら、ゆき!しゃべってる場合じゃないぞ!窓を閉めろ窓を!」

「あら!パウロスじゃない、男爵の所の!」
「まあ!ホントだわ!じゃ、ゆきちゃんは男爵のおつかい?」

「うん、しあわせ屋さんに頼まれたの!あのね、ゆきね…」
「ゆき~説明は後!とにかく窓を閉めろって!」

ゆきの顔の横で、パウロスがせわしなく羽をバタつかせる。
パウロスにせかされて、窓を閉めるとゆきはまたも窓の外の風景に目を奪われた。
列車はいつの間にか、海の上を飛ぶように走っていたのだ。

窓が閉まるのと同時に列車は沈み始め、一気に白い泡が窓全体に広がる。
泡はぐるぐると渦を巻き、すぐに水に溶けていった。

「わぁ・・・っ」

視界が開け、ゆきの目に飛びこんできた風景は、今まで見たこともない海の世界。
一面の青色。波間から差し込む光のカーテン。
遠くには色とりどりの珊瑚の丘が見え、海草の森やイソギンチャクの街の間を可愛い熱帯魚達が泳いでいる。
窓のすぐ側では、列車が魚達をどんどん追い越していく。
目の前に、まるで魚の図鑑のように、次々と魚が現れては消えていく。

「お魚、いっぱーい。」

ゆきは顔全体を窓に押しつけて、流れていく景色を目で追った。