ここは、トイス城の中庭。武術教室が開かれ、子供達の声が絶えないこの場は今は静かだった。

マーリン王は黙したまま、前に立つ2人の青年を見据えた。
その視線に圧を感じたカイルとジムは姿勢を正す。

「ケンカの原因は何だ?」

「父上、大した事では…」

カイルが口を開くが、マーリンの視線に続けられない。

「その顔では説得力は無い。」

2人の顔は簡単に言えば、《ボッコボコ》だ。
アオタンに鼻血、口も切れて、美形が台無しだ。

「…陛下。この度の件に関しましては、カイ…カドゥイケル様に責任はなく、この私にのみ、厳罰をお与え下さい。」

ジムが口ごもるカイルを横目にそう言った。
カイルは慌てて身を乗り出し…

「ちょっと待って下さい!父上!ジムの責任ではありません!」
「いいえ!国に仕える身でありながら、王子に手をあげるなど、もっての他です。ですから…」
「それを言うなら、王子である私の軽はずみな発言がいけなかったのです!」
「それは!…………………そうですね、カドゥイケル様は日頃から王家の者という認識を持って頂かないと…」

必死でお互いをかばい合っていたはずが、突然のジムの言葉にカイルは目を丸くした。

「おい、それは、お前がいつもいつも堅すぎなんだよ!武術教室も堅すぎで皆が可哀想だつってんだ!」

売り言葉に買い言葉…ケンカの原因が今まさに、繰り返されようとしていた。

半刻ほど前、武術教室の子供達が泣きながら、マーリンに助けを求めてきたのである。
先生であるジムとカイル王子が殴り合っている、と。
目の前で繰り広げられる、子供のような口喧嘩にマーリンは溜息を吐いた。

「…とか、言いやがって!お堅いにもほどがあらぁ!」
「お前の王子としての自覚の無さよりはマシだ!」
「!このヤロ…」
「やるか!」

「…おい。」

『黙ってろ!』




中庭を風が通り抜けた。
マーリンを目の前に、2人は硬直した。
頭に血が昇り、よりにもよって国王に『黙ってろ!』とは…


その後、中庭でお揃いのたんこぶを頭に、草むしりをする2人を見て…

「全く…昔のシルフェリアとポムを見ているようじゃな…」

2人の青年の行く末に、笑みがこぼれるマーリン王なのでした。