ハーゼオンはずっと、同族の吸血鬼と揉めている。
なかなか決着がつかないらしい。
そのせいで、この国の外の治安は悪化しているそうだ。
国の外のことはよく分からないけれど、初めて会った頃よりも、ハーゼオンは疲れた様子をよく見せた。
「出来たら人は、あまり傷つけたくないんだけど。あまりそうも言ってられないかもしれない」
弱音を吐くハーゼオンの肩をミルフィリアが労るようにぽんぽんと叩く。
「ご苦労なことじゃな、赤いの」
「紫焔さまさまが手伝ってくれると楽なんだけれど。人数的に」
「嫌じゃ」
はっきり答えると、ミルフィリアはぷいとつれなく横を向いた。
ハーゼオンはちぇと残念そうに頬をかく。
しかし、すぐに明るい笑顔を浮かべ私を見た。
「花も鳥も空もきっと花嫁を歓迎すると思う。だからいつかおいでよ、南へ」
雪深いこの地に咲く花は僅かだ。
青い空も少しの間しか見ることが出来ない。
話を聞くだけでも分かる、色の溢れた世界。
「見てみたいわ」
もちろん、一人ではなく。
皆で。
「…いつか、連れていってくれる?」
私はユゼを上目に見上げる。
それを受けたユゼが私に微笑みを落とした。
「あぁ。約束しよう」