妹のレイシャがさらわれる原因となったのか、この紫焔のところの吸血鬼だったはずだ。
随分、昔のことのような気がする。
だからと言って、悪い印象が消えたわけではなかった。
私はちらりと後ろを盗み見る。
少女というより幼女と呼ぶ方が相応しい紫焔は、意外にも大人しく私の後ろをついてきていた。
「ユゼ、お客様よ…」
書斎を覗き、本を読んでいたユゼに声を掛ける。
顔をあげたユゼは、紫焔に気付くと、怪訝そうに眉をひそめた。
「久しぶりじゃの、青いの」
「何用だ」
挨拶を抜いて、ユゼは紫焔に尋ねる。
すると、紫焔は何かを思案する顔になった。
しばらくユゼの様子を伺う。
そして、おもむろに口を開いた。
「アレはどこじゃ」
「ここにはいないが」
「呼んでくれ」
「……」
紫焔は、ユゼにも偉そうな態度を改めるつもりはないようだ。
元々こういう性格なのかもしれない。
珍しく押され気味のユゼが少しだけ面白い。
くすりと笑いをこぼすと、ユゼの視線が私へ向けられた。
その氷色の視線から逃れるように私は笑いを引っ込め目を逸らす。
「早く致せ」
紫焔に急かされたユゼは、渋々といった様子で虚空を見つめた。
ここではないどこか遠くへ意識を集中させている。
「ルー」
そして、ただ一言、ルーを呼んだ。
すると、廊下の向こうからルー本人が走ってやってくる。
「吸血鬼、呼んだか……って玄関から入って来いよ…」
ルーは書斎の入り口にいる紫焔を見つけると、疲れたようにがっくりと肩を落とした。
「どこから入ろうが、わらわの勝手じゃ。して、用は?」
「あー…長くなるから、茶を飲みながら話す…。悪いな、吸血鬼。邪魔をして」
「いや」
ルーは紫焔と私の腕を掴むと、やや強引に引っ張った。
まるで、ユゼの書斎から離そうとしているようだ。
そのまま、応接間まで引っ張って行き、私と紫焔を押し込めると、お茶を入れに走っていく。
「相変わらずのようじゃのう」
その後ろ姿を眺めながら、紫焔はどこか楽しげな含み笑いを浮かべた。



