「達郎?」

また無言が返ってきた。

しかしその視線はしっかり前を向いている。

一呼吸の間を空けて、達郎がいきなりUターンした。

「ちょ、ちょっと!?」

あたしはあわてて後を追う。

達郎が立ち止まったのはマンション下にあった自動販売機の前。

そこで缶コーヒーを買うと、達郎はそれをしっかり握りしめた。

達郎には変な癖がある。

事件を推理する時、必ず缶コーヒーを手にするのだ。

なんでもはじめて事件を解決した時、たまたま缶コーヒーを手にしていたそうで、それ以来癖になっているらしい。

しかしまだ容疑者に話も訊いてないのに、いったい何をひらめいたというのだ。

やがて乾いた音がした。

達郎が缶コーヒーを開けた音だった。

そのまま一口飲むと軽く息を吐く。

「なにひらめいたの?」

あたしが訊くと、達郎は口もとに小さな笑みを浮かべた。

う、なんか嫌な予感。