――目の前に、瑠雨の顔。


予想外の出来事に驚いている内に、瑠雨の唇が微かに動く。


「……りがと」

「は? 何つった?」


聞こえねぇからちゃんと言えよ。なんて、アパートの前で言いたかったのはこれか。


何がそんなに恥ずかしいのか知らねぇけど、ハッキリと言わせたい。


瑠雨はグレーのカラコンを入れた切れ長の二重を一度伏せて、ギッと俺を睨み上げた。


なんでここで睨むかなコイツは……。



「ありがとうございました!!!」


そう言って俺の襟を離し、車から降りようとした瑠雨を引き止める。


「何が?」


案の定、瑠雨はクルッと振り向いて悔しそうにした。


「昨日助けてくれてどーもって言ってんのよ!!!」


俺に礼を言うのがそんなに屈辱か。いいけどな、別に。


「ちょー待て待て待て!!」


ドアを開け車から降りた瑠雨を再度引き止めると、「何!!!」と顔を赤くして振り向かれる。