「逃げねーよ、もう」


そう言った俺を、床に倒れている隼人とオッサンが見上げた。


「ま、心の整理期間くらい与えてあげましょうか店長」

「そうねぇ隼人! レオはまだお子ちゃまだものねーっ」

「ふたりまとめてサンドバックにしてやろうか?」


手をバキバキ鳴らすと「「嘘です」」と怯えるふたりに背を向け、笑った。




もう逃げねぇよ。


大学行って、-mia-でバイトして、そんな当たり前な生活をして落ち着きを取り戻して。


また瑠雨に向き合えるようになったら、自分の気持ちに自信を持って向き合えるようになったら。


俺の逃げは必要だったと言える。


ただ逃げたという現実に、立ち向かったという未来を付け足してやる。



「あー……かっこわりぃ」


恐怖にも似た緊張が、まだ少し胸の奥でくすぶっている。


だけど嫌じゃない。


上等。そう、思う。


こんなにしんどくて、悩んで戸惑って、一言じゃ言い表せない状態なのに、その原因はたった二文字だと思うと笑えた。


この想いは、たった二文字。


それでも俺は伝える。



今度はちゃんと瑠雨の目を見て、極上の笑顔で言ってやんよ。