「瑠雨」
準備室から廊下に出る一歩手前で瑠雨は振り向き、グレーの瞳に俺を映した。
……何引き止めてんだか。
行かないでほしい。一緒にいてほしい。そう言えたら、いいんだけどな。
「……何?」
「俺の言い付け、言ってみろ」
「……帰る前と、家に着いたら連絡する?」
「遅くなったら送ってもらえよ。また襲われても知らねぇかんな」
「なっ!! 襲われるか! てかあんな間抜けなこと二度もないからっ!」
「瑠雨ー!? 早くーっ!」
「小猿が呼んでんぞ。……じゃーな」
瑠雨の顔を見ず机に向かい背を向けると、暫くして準備室のドアが閉まった。
その音がやたら切なく感じたのは、瑠雨から言葉が返ってこなかったからかもしれない。



