黒縁の眼鏡の奥で怪しく光る瞳を見ながら、溜め息混じりに呟く。
「何を手伝えばいいのか早く言ってくれますか」
あたしとコイツは知り合いなんかじゃない。目の前にいるのは知らない人。ただの教育実習生。
ただの、人間っ!!!
フイッと顔を背けると「ふぅ~ん」とか意味の分からない返事。
「手伝うことなんか何もねぇよ」
「……」
「ふっ……俺見て唖然としちゃって、おもしれぇから連れて来ただけですけど?」
あの、殴っていいですか?
握りそうになった拳を無理矢理開いて、深呼吸するように長く溜め息を吐いた。
売り言葉に買い言葉じゃ、コイツの思うつぼ。
関わらないのが無理なら、必要最低限の会話だけすればいい。それが、正解。
「そうですか。じゃあ失礼します」
踵を返してドアに手を掛けた瞬間、顔の横から手が伸びてきた。真後ろに、千草麗桜の気配がする。
「瑠雨」
「っな、に!!!」
耳元で囁かれ、あたしは耳を塞いで振り向く。
「――!」
――ゴンッ!!とドアに後頭部をぶつけたのは、振り向いたら予想以上に千草麗桜の顔が間近にあって、ビックリして仰け反ったから。



