――逃げるなら今!
そう思った瞬間、視界が反転して背中に鈍い衝撃を受ける。
……は? 何で今夜空なんか見上げなきゃなんないわけ?
訳が分からず目を動かすと、コイツの愛車のバンパーに押し倒されたらしかった。
「……お前がキョウを好きだろーが関係ねぇけどよ」
突如あたしの視界に広がる夜空に現れた、俺様野郎。身の危険を感じた時にはもう遅かった。
「余所見してんじゃねぇよ、瑠雨」
あの時とは全く違う、背中がゾクッとする食い付かれるような、キス。
舐められたんじゃない。
確かに、あたしの唇に傲慢な男の唇が押し当てられた。
「――っ! ……マジで野良かって……」
噛み付いたあたしから勢いよく離れて、親指で下唇を拭う千草麗桜。
「あーあ。血ぃ出てんじゃん」
親指に付いた血を見るなり、下唇を舐める千草麗桜をあたしはただ見つめていた。
「……何震えてんの? ……噛み付くくらいだから、嫌だったみたいだな」
当たり前なことを言うな。嫌に決まってる。
何でアンタなんかにキスされなきゃいけないわけ?
「それとも………見られたのが嫌だった、とか?」
その言葉に目を見開くと、千草麗桜は悪戯に笑って視線を遠くに向けた。



