「巽くんってほんっとアホだよねー」


席に戻るとケラケラと笑う由美子が私を待っていてくれた。
うん、と小さく返事をして、すとん、と椅子に腰を下ろす。


「美咲?」

「……なんか、すごい」

「なにが?」


あんなふうに優しい男の子なんて初めてだ。
しかも“かわいい”だって。今まで散々ブスって言われてたし、それを聞いて笑う男子しかいなかったのに。


「なに? もしかして?」

「いや! わかんない。わかんなけど!」


私の気持ちを察したのか、由美子がにやりと笑って慌てて否定した。

だって。だって今日はじめて会った人だし。
少し話しただけだし! 

でも。でも。


「顔、真っ赤だよー」


茶化してくる由美子に、もうなにも言えなくなってしまった。


中学生の幕開け。
巽と離れた穏やかな楽しい中学生活を望んでいたし、もっと言えば恋だって望んでいた。

巽がいる限り、回りの男子も同じような奴ばっかりだと思っていたけど……。巽がきっかけで、悠斗くんという男の子と出会った。


悔しいけれど。
憎たらしいし、隣のクラスの巽は嫌いだけど。


ほんの少し、ワクワクとドキドキが混ざって、頬が緩んだ。