「一時間目、サボろう!」

「……え?」


きょとんとする私と由美子の手をとって、教室を出て階段に向かう。

4階の最上階について、角まで行って右に曲がったところの廊下に腰を下ろした。目の前は第二音楽室で、今はもうめったに使われることはない。多分だれもこないだろう。

確かに穴場だ、と思いながら、緊張しつつ沙知絵を見つめた。


「旅行、どうだったの?」


沙知絵は、落ち着いた雰囲気で口にする。
なんだか……なにがあったのかわかっているような気がして、ゆっくりと口を開いた。

やっぱりどうしても……踏み出せなかったこと。



泣きながら巽へのキモチを、あの日、大樹くんに告げた。

ずっと、謝るしかできなかったけれど、大樹くんはなにも言わずにそばにいてくれた。

なんでなのかわからないけれど、『俺も、ごめん』と謝って、それが余計に辛かった。

私が悪いのに。私だけが悪い。
意気地なしで逃げまわって、人に頼って、それでもやっぱり……巽のことが忘れられないままで。

どっちにも踏み出せない弱虫だったんだ。

このまま泊まることはできないと帰ろうとしたけれど、せっかくだから泊まろうと言われて……一緒に眠った。

もちろん、別々の布団で、大樹くんは私に一度も触れなかった。

どうして私は、あんなに、大切な人を傷つけたんだろう。傷つけるまで、気づけなかったんだろう。そう思うと、自分の最低な行動に自分で嫌になって涙が止まらない。
泣いていることすら、自分に甘えているみたいだっていうのに。


泣きつかれて、いつの間にか眠って。
次の日、大樹くんは笑顔で『帰ろうか』とそう言った。


駅に着いて、改めて頭を下げた。
別れの言葉とともに。