……どういう、こと。
さっきも、そんな意味深なことを言っていたけど……なんだかまるで、“美咲は俺が好き”みたいじゃねえか?

そんなこと、ないだろ。
昨日あれだけ言って、拒否されたのに。
意地っ張りで頑固だっていうのは知っているけど、だからって、まさか……。

しばらくひとりで喫茶店で考えたけれど、答えなんて出るはずもなく諦めて俺も腰を上げて店を出て行った。


時間はまだ昼過ぎ。
……美咲は今ごろ大樹と……遊んでいるんだろうなあ。
昨日は、どうしたんだろう、なんて相変わらず考えてしまう自分の女々しさに嫌になってくる。

沙知絵のせいで、スッキリした気分だったのに、もやもやが大きくなってしまったじゃねえか……。

あの手を、離さなければ、どうなっていたんだろう。
そんなつまらないことを考えてしまう。
あのとき、美咲がどう思っているか、逃げずに聞くまで待ってみればよかったのか?

そしたら、あいつは、なんて言ったんだろう。

家の前に着いたけれど、なんとなく中に入れなかった。
ひとりで部屋にこもっていたら余計悶々と考えてしまいそうだ。明宏でも呼び出して遊びに行こうか。

そう思ったとき、隣を一台のタクシーが通りすぎてすぐそばで止まった。
美咲の家の前。おばさんたち?

見ていると、降りてきたのは……荷物を抱えた美咲。
俺の方を見もせずに、タクシーから降りてすぐに門に手をかける。


「美咲?」


どうした?
なんか、様子がおかしくねえか?
っていうかなんでタクシーでこんな時間に帰ってきてんの?

俺の呼びかけに、ビクリと肩を震わせてから振り返る。
涙で、ぐちゃぐちゃに濡らした顔で。


なんで?


そのまますぐに背を向けて、バタバタと家の中に入っていった。

なんで、泣いてんのお前。
なんで、こんな時間にひとりで帰ってきてんだよ。


追いかけるべきなのか、そっとしておくべきなのか……どうしていいのかわからず、暫くの間家の前でバカみたいに突っ立っていた。