「それって、どういう意味で?」

「……この前の……」


頭をさげたまま答えると、沙知絵が「それだけ?」と聞いてきた。


「……今まで、一緒にいたことも全部、も……」


無理だったのに、俺に付きあわせてしまって、ごめん、と小さく呟く。
もう、沙知絵と一緒にいることはできない。けれどそこまで俺が口にしていいのかがわからなくて、曖昧な言葉になってしまった。

俺が頭を下げている間に、沙知絵のカフェオレが運ばれてきて、それを一口含んでから「いいよ」と軽い返事。


「……え?」

「もう、いいよ」


あっけらかんとした声に顔を上げれば、沙知絵はいつものように明るい顔と声でもう一度同じ台詞を口にする。

……えーっと。
こんな簡単に“いいよ”と言われると……俺もどうしていいのか。もっと怒られたり詰られたり、泣かれたりするのかなーって思ってたんだけど……。

っていうか傷つけた、よな、俺。
なんであんなに傷つけられたのに、沙知絵は……そんなに優しいんだろう。


「そんな驚いた顔で見なくても。そう言われるだろうなーって思ってたからさー」

「いや、その……」

「ほんとは、ね。私が謝らなくちゃいけないんだ。ウソ、ついたから」


沙知絵の言っている意味がわからなくて、ぼけっとしていると苦笑を零された。


「でも、悔しいから、言わない」

「なんだそれ」


つんと、拗ねるようにそっぽを向いた沙知絵を見て、思わず笑ってしまった。
そんな俺を見て、沙知絵はちょっと泣きそうな顔をして笑った。


「……望みがないってウソだよ」

「は?」

「美咲は巽くんのこと、好きじゃない、っていうの、ウソ」

「なに、言って……」


そんなわけねーじゃん。
そんなこと、あるわけねえし。