「中学生になってもだれより早く学校に行くかー」


ふあ、と欠伸混じりに由美子が呟いた。


「どーする? 巽くんと同じクラスになったら」

「やめて! 想像したくない……!!」

「あはは、ほんっと仲悪いよねー」


ニヤリと笑う由美子に、真顔で拒否をしてしまうと豪快に笑われる。

同じクラスとか……! 最悪だ! 中学校は3年間クラス替えがないらしい。今まで幸いにも同じクラスになったことはないのに! このタイミングで同じクラスとか、今日から始まる3年間地獄じゃないか。


「いい加減仲よくすればいいのに」

「ムリムリ。あいつにそんなことできるわけないじゃん」

「美咲も同じでしょうが」


まあ、それは否定出来ないけれど……。



小学校で巽の家の隣に引っ越してきた。
その日にケンカして、学校転入の当日にもケンカした。廊下で人を笑いものにするような最低な男。

あの日から私たちの関係はなにも変わっていない。
部屋の窓は閉め切ったままだし、カーテンも開けたことはない。あそこは壁だ、私には。

今だってこうしてだれより早く学校にいくのは、登校中に巽と絶対会うことのないように。

あいつはバカだから、毎日学校に行く時間が違う。
何度も何度も時間を変えたけれど、あのバカに出くわすことがあるから、あいつが絶対起きないだろう時間に学校に行くことにしている。


我ながらバカだなあとは思うけど、もうほんっとにイヤなんだもん。

顔を見るのも声を聞くのも全部イヤ!
見かけたらすぐ文句を言われるしケンカになるし。

同じクラスになったことは一度もない。けれど、顔を合わせる度に私たちはケンカばっかりだ。
お互い知らない人のように無視することもあるけれど、それだって不快でしかない。

ささいなきっかけがあれば、すぐにケンカだ。
お互いの暴言が尽きるまで。もしくはチャイムが鳴って強制終了になるまで。


……そんなことを繰り返しているせいで、私たちの関係はみんなに知れ渡っていたんだから。