沙知絵とケンカなんかでここまで落ち込むわけねえだろ、といいそうになったけれど、それはさすがに口にしなかった。
……付き合っている女に対して、そんなことを言えばうるさいだろうし、なにより自分が最低すぎる。

付きあおうって、ちゃんと、沙知絵を見ようって決めたのは、ついこの間っていうのに……。

大樹から旅行の話だって聞いたときはなんとも思ってなかったはずなのに……美咲の顔とか、似合わねえ下着とか見たら……。

ああああーもう!

昨日のことを思い出したらもう生きていくのが辛いくらいだ。
そのくせ忘れられない美咲のぬくもり。頭のなかぐっちゃぐちゃで、どうしていいのかわかんねーよもう!

頭をグチャグチャかきむしると、ポケットに入れていた携帯が鳴る。
多分、メールで、多分、沙知絵。
俺にこんな時間にメールしてくる奴なんて沙知絵くらいしかいねえ。

開いてみれば、予想通りの送り主から『今日もいつものところでいい?』という内容の連絡。

ああ、そういや今日も会うとか言ってたっけ。
……正直沙知絵に会うような気分じゃねえんだけど……無視するわけにもいかねえし。


「沙知絵ちゃん? なんで彼女からのメールにそんな顔してんだよー」


同じく美咲とメールしていたんだろう大樹が、嬉しそうな顔で声をかけてくる。
美咲と付き合いだしてから、大樹の顔はいつもこんなんだ。

美咲は今日、どんな感じなんだろう。
大樹にどんなメールをしているんだろう。
大樹の様子を見ると、昨日のことは言ってないんだろうけど……。


「そういや沙知絵ちゃんは東京行くの?」


美咲の事の次に悩んでいる話題に、直ぐに返事ができなかった。


「わかんね。っていうか俺も決めたわけじゃねえし」

「なにを悩んでるんだよ。沙知絵ちゃんもいいって言ってるならいいじゃん」


それはそうなんだけど……。
明宏と大樹の質問にうまく答えられないまま濁して過ごした。