巽の唇は、少しずつ位置を変えて、私を刺激した。
頬、耳、首筋、そして、鎖骨。

私の頬に触れていた大きな手は、顔から髪の毛に、そして腕、腰。
……その手は、私の肌を直に撫でる。そのたびに、背中がぞくぞくして、どうしたらいいのかわからなくなってしまう。

余った手は、私の頬をなでて、髪の毛に絡ませた。


抵抗すればいい。っていうか抵抗しなくちゃいけない。
なのに……このままがいいと思ってしまっている。心地いいって思ってしまう。

頭のなかで、かすかに拒んでいる私がいるのに。身体がそれをできないでいる。

巽の手が、腰からゆっくりと上に上がって、脇腹をなぞる。
そして……私の胸元を優しく包んだ。

やめて。やめないで。優しくして、優しくしないで。


「……美咲」


巽が私に再びくちづけしようとして、固まった。

私の涙に、巽が私の身体から、少し離れるように身体を起こした。

離れないで、離れて。

自分でコントロール出来ない頭と身体に、いつのまにか涙が溢れて止まらない。
涙で視界が歪んできて、目の前にいるはずの巽の顔ですらもう、見えない。


「……み、美咲」


ためらいがちに私を呼ぶ声は聞こえるけど、どんな表情をしているかはわからない。



「また、練習?」



前したキスのように……私をからかってるの?
前のように、他の人とするために、私に触れるの?


「……帰って、出て行って、消えて」


両手で顔をおおいながら、震える声でそう告げた。

しばらくして巽がベッドから降りていく。
そして、窓が開く音が聞こえてきた。


言い訳の一つでもしてくれたらいいのに。もしくはなにも言わずに、そのまま……私を抱いてくれたらよかったのに。
そしたら……どんなにバカな女だと思われても、受け入れたのに。


もしくは“ごめん”って、謝ってくれたらいい。バカにして笑ってくれたっていい。死ぬほど最低な言葉だけを私に投げつけて傷つけてくれたら。

そしたら……全てをぶちまけて罵倒することができたのに。


そしたら、嫌いになれたかもしれないのに。


どっちにもさせてくれないなんて、ずるすぎる。
なにも言わずに出て行くなんて、ずるい。

嫌い。あんなやつ嫌い。大嫌いだ。





……だけど、やっぱり……好きなんだよ。