「あ、ああ……」


そう言う以外に、なんて言えばよかったのかもわかんねえ。
ここで俺が、無理にでも美咲を連れて帰るなんて、おかしいだろ。

それに美咲も……そのほうが喜ぶのかもしれねえ。


「巽が行けば? 親とも知り合いなんだろ?」


明宏がそう言って、隣で由美子が「うん」と言った。


「帰っちゃうの?」


けれど、後ろにいた沙知絵が名残惜しそうに呟く。

このまま美咲から離れることに、一瞬躊躇したけれど、ぐっと力を込めて大樹に押し付けた。

美咲はもう気が抜けたのか、立っているものの朦朧としてなんの反応もしない。

お前は、そのほうがいいんだよな。


「なあ、巽」


美咲を引き寄せて肩を抱く大樹が、小さな声で俺を呼ぶ。


「俺、美咲ちゃんのこと、結構本気になってるんだけど、お前は?」


……なんで、そんなこと俺に聞くんだよ。
俺は? って、なんだそれ。


「もしも、もしもだけど、俺と美咲ちゃんが付き合ったら、巽は喜んでくれるか?」


わかんねえよそんなこと。

だって想像できねえもん。美咲が、だれかと付き合うとか、全然想像できねえ。
そのとき、俺がどう思うかなんて、わかんねえ。

返事なんてしようがねえ。

そんなことよりさっさとそのバカを連れ帰ってやれよ。


「さっさと、送れよ」

「それが、返事ってこと?」

「じゃあな」


大樹の言葉に対する返答をしないまま、背を向けた。
背後から、大樹が踵を返す音が聞こえてきて、胸がぎゅってだれかに握りつぶされたみたいに痛む。

なんなんだよ、これ。


「いいのか? 巽」


今度は明宏が俺に小声で告げる。
なにがだよ。なんもよくねえよ。


「このままだと……大樹マジだと思うけど」

「俺には関係ねえ」


そう、関係ねえ。関係あるわけがない。