しばらく悩んでから、しぶしぶだけれど「わかった」と答えた。
……巽もクラブがあるだろうから頻繁には会うことはないだろうし、あと1回だけ会えばいいんだよね、きっと。


私の返事に嬉しそうにして、スケジュール帳を確認する沙知絵。
そんなに、巽に会えることが嬉しいんだなあ……。

なんで巽なんだろう。
みかけはまあまだいいとしても、性格は最悪だよ? きっと話をしたらがっかりする。

性格は悪いし、口も悪いし、無愛想だし、バカだもん。


「……ねえ?」

「ん?」


明宏くんに連絡しているのか、携帯を手にしている由美子にぼそっと語りかける。


「なんで巽なんだろう。本気かな……。巽のどこがいいのか全くわかんないんだけど」


私と同じくらい昔から巽を知っている由美子なら、私と同じ気持ちだと思う。


「んー、そう? 小学校の頃はケンカばっかりでうるさかったけど、今はもてそうだなあって思うよ。確かにそっけないところもあるけど、優しいじゃない。顔もかっこいいし、今は背も高いしさ」


優しい!?
だれが!? どこのだれの話? 


「泣いている美咲に“なにした”とか“どうした”って声をかけるって優しいじゃない」

「……そ、れは、そうかも、しれないけど」


言われてみると、確かに、そういう部分はあるかもしれない。
追いかけてきてくれたし。

にやりと笑う由美子に、もごもごするしか出来なかった。
優しい、のかなあ……優しくないわけじゃ、ないのかもしれないけど、うーん。


「いいの? 佐知子に取られるよ?」


こそっと耳打ちされて、なにも返事ができなかった。

取られるもなにも、私のものでもないし。別にそうなったってどうでもいい。

付き合えばいい。
巽に沙知絵はもったいないと思うから、そうなったらちょっと、ムカつくけど。

ふたりがいいなら、勝手にすればいい。私には、関係ない。


……霧がかかったようにもやもやする気持ちに蓋をして、「いいんじゃない?」と無理やり笑顔でこたえてみせた。