「……な」

「え!?」


俺の声に、窓の外にいる奴が振り返る。

ショートカットに、色黒の肌。
タンクトップにショートパンツ。


「な、な……」


目の前の女。美咲って言ってたか。そいつは驚きの表情で口をパクパクさせる。
ちなみに部屋の中はぐっちゃぐちゃだ。段ボールが雪崩を起こしたのか、部屋は床が見えないくらいに散らばっている。

っていうか。
なんだこの近さ。

俺の部屋の窓のしたには小さな屋根みたいなんがあって。美咲の部屋の窓にもそれがある。
屋根と屋根の間は50センチ位。俺が今持っている定規くらいの長さしか無い。窓と窓は離れてるけど、これ普通に行き来できる距離じゃね?

ちゃんと見たことなかったけど、こんな近いんだ。


「なんであんたがここにいるの!」

「はあ? ここは俺の家なんだけど。っていうかうっせーんだよ」

「片付けてんだから仕方ないでしょ! 覗かないでよ変態!」


……はあ? だれが変態だ。


「変態はお前だろ。男のくせにスカートはいてキモいんだよ」

「……っ! 私は!」

「しかもなにそのかっこ。露出狂みたいなかっこしてんじゃん。変態」


そういった瞬間、顔面に漫画が飛んできた。
なんとか避けたけれど、目の前の女は手に何冊も持って俺に投げようとしてくる。

なんてやつだよ! あぶねえだろ!


「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い! 出てけ変態!」

「俺が先に住んでたんだよ、知るか、暴力女!」

「うるさいうるさいうるさい! チビ! チビ男!」

「だれがチビだよ!」

「あんた以外にチビがいるとでも思ってるわけ!? なんなの幼稚園児みたい!」

「ふざけんなよお前!」

「さっさと部屋に戻ってよ気持ち悪い! 覗かないでよ!」

「だれがお前みたいなブスの男女を覗くか! 自意識過剰なんだよ!」


大声で叫びまくって、お互いに息を切らせ始める。
じいっとお互いをにらみ合い、背を向けて窓を閉めたのは同時だったと思う。


——最悪だ!


シャッと久々に自分の部屋のカーテンを閉めた。
なんなんだよマジで! なんであいつが部屋の真ん前にいるわけ? しかもすげえ口悪い! 


もう無理。もう二度と話しかけてなんかやるもんか。
ちょっとでもかわいそうかなーなんて思った俺がバカだった!



だいっきらいだあんな女!