——『キスしたかった』
大輔って男と。
美咲がそういったから……だからってなにをした?
自分から、なにを……?
美咲の顔が真っ赤に染まっていって、口をパクパクさせる。
なにかを言われる。なにを言われる? 怒られる? 泣かれる? なんでかって聞かれる?
俺は、なんて言えばいい?
「……よかったじゃねえか」
「な、に……」
「これで今度は逃げずに好きな男とできるんじゃねえの?」
わかってた。わかってて言ったんだ。
……美咲が泣くことくらいは。泣かせたかったのかもしれない。
美咲の手のひらが、俺のほほに飛んできたけれど、それを痛いとは思わなかった。
むしろ、殴ってくれてよかったとさえ思う。
だって俺の頭はおかしくなってたんだ。
美咲に自分からキスするなんて、狂ったとしか思えないだろ。
大粒の涙をぼろぼろと零しながら、俺を睨みつける美咲。
今までで一番、憎しみがこもっているのがわかる。
ぎゅうっと唇を噛んでから、自分の袖で思い切り唇をこすった。
汚いものを今すぐ落とすみたいに、必死に、力いっぱい。
なにも言えずに見つめていると、美咲の唇に血がにじむ。
俺はそんなにきたねえってか。
「なんで、なんでこんなこと……」
「別に……」
「別にってなによ……最低。ほんっと最低。死ね、返せ! バカ! 最悪!」
「いいだろ、お互い練習になるじゃねえか」
「ふざけないで」
「ふざけてねえよ別に。なんならもっかいしてやろうか? もっかいしたら次はちゃんと大輔とやらとできんじゃねえの? 俺も、彼女ができたらスムーズにできるだろうし」
俺の口はなんでこう、ペラペラと思ってもいないことを話すことができるんだろう。
口を開けば開くほど、美咲の涙が零れ落ちるのがわかる。
自分がどれだけひでえことを言っているのかも、わかる。
だけど、今は……美咲に怒られた方がマシだ。おもいっきり怒鳴ればいい。そのほうが、俺にとってもいいんだ。