「ちょっと、思李?」



その横で私は綺に袖を引っ張られ、耳打ちされる。


暑さではなく、この場をどうしようかと困り果てた汗が一筋、流れていった。



「あんた、最近誘っても乗ってこないと思ったらこういうこと? あたしに黙っとくなんて、いい度胸じゃん」



三人に聞こえないよう気遣ってくれる心は嬉しいんですが。



完璧、おもちゃを見つけた瞳になってますよね?



「いや、あー、えーとね、色々事情がありまして……」


「事情? 幼稚園前から一緒のあたしに言えないような?」



いや、綺を信じてないとかそういう問題じゃなくて。


『実は戦国時代から来た男性と知り合いまして』


なんてありえないこと、そうそう人に言えません。



「そういうんじゃなくてね……まだ付き合ってるとかじゃないし」


「は? そうなの?」



目をまんまるくした綺に頷くと、暫し黙ってから「ははあ」とひとり頷かれた。