何も言えない。



何も言葉なんて出てこなかった。



だから代わりに、自分の手を伸ばした。


他にどうしたらいいのかなんて、私にはわからないから。



そっとその背中に両腕を回した。



華奢だと思っていたのに予想以上にしっかりしているその身体は小さく震えていて。



男が苦しそうに泣くのが耳の後ろから聞こえた。




そして、思い出す。


 


イオウ――伊桜。



日本史の教科書に出てくる。



昔、この土地にあった国の名前。