「でも、さくらでんぶは、食べてくれないんだよなぁ」 「……最後のお弁当に入っていたさくらでんぶは、食べたわよ?」 「えっ、マジで?」 「……うん。最後くらいは、って思ったから。でも、もう二度と食べないから」 武人の腕がわずかに動き、あたしの体から離れようとする。 ――……離れないで……。 あたしはその腕を掴む手に力を入れ、離れていかないようにキュッと握りしめた。 「……もう少し、このままでいて」 あたしがそう呟くと。 武人は離れかけた腕で、改めてあたしをギュッと抱きしめた。