そんな裏事情を千沙子に言った所で何になる?

 千沙子は母親を恨み、家族の関係に溝ができるのは明白。
 そして、家族だからこそ、一度できた溝はそう簡単には埋まらない。愛憎が絡むものなら尚更だ。

 ご主人様の命令、という形で始まった恋人関係だったが、それなりに楽しめた。必要以上に千沙子が傷つくのは本意じゃない。

 親子で恨み合う傷よりも、酷い男に弄ばれて捨てられた傷の方が癒えるのは早いだろう。

 瞳いっぱいに涙を溜め、肩を震わせて唇を噛む千沙子に背を向けて、オレは入学式の会場へ向かった。