テレビ鑑賞を邪魔され、絵理は抗議の声を上げた。

「こら、陣、何をするか」

「悪い。手が滑った」

 白々しい言葉が口をついて出た。

 暗転したテレビ画面に映った自分の顔は、あらゆる感情をない交ぜにした無表情。
 能面みたいな顔だ、と他人事のように思った。

 絵理はそんなオレの顔をじっと見つめて一言告げた。

「少し早いが、自由時間にして良いぞ」

「そうか」

「出かけてくるのだろう」

「そうする」

 短く答えて、オレは私室に戻って私服に着替えた。
 夜の街へ、自転車を走らせる。

 そんなオレを、月明かりが照らしていた。