「つまり二人きりの時は『絵理』と呼んで欲しいと。
 執事としての私ではなく、一人の男としての私で居て欲しいと、そう仰る訳ですか?」

 絵理。さっきお前が言ったのは立派な口説き文句だ。その事を強調するように、少し意地悪な笑みでそう返した。

「うむ。呼び捨てで構わぬ。住み込みで勤めているのだ。そうでもせねば息を抜ける場があまりにも少なかろう?
 私の執事である以上、完全な息抜きは無理だろうが、せめて態度を繕う苦労だけでも軽くしてやろうと思ってな。遠慮はいらぬぞ」

 ……オレの台詞の意図を全く理解していない。

 いや、理解していない振りをしているのか?

 相変わらず、予想の斜め上を行く姫君だ。