「……なんだそのへろへろパンチは」
「うっさい祠稀のハゲ」
「ハゲてねぇよ!」
知ってるよ。バカじゃないの。
心配だったなら、迎えに来なさいよ。
変なところで恥ずかしがって、結局バレて。そっちのほうがよっぽど恥ずかしいじゃん。
「つーか、殴るなら彗みたいなの出せよ」
「いや無理でしょ。彗、空手上級者だもん」
「はぁぁあ!? マジで!?」
「今はもうやってないけどね」
「……だからか。不憫通り越してかわいそうだわ、大雅。……何ニヤけてんの」
「んー? 別にぃ〜」
ただ、幸せだなと思って。
不信そうにあたしを見る祠稀に微笑んで、エレベーターに乗り込む。
祠稀は何か言いたそうだったけど、けっきょく会話はないまま、あたしたちの家へ帰った。
この時あたしは初めて、彗以外との沈黙が心地いいって思ったんだ。



