涙を浮かべたまま振り向き微笑むと、玄関に立っていた彗は驚くでもなく心配するでもなく、大きく1歩踏み出した。
ふわりと香る、彗の匂い。
思い惑うことはなく、彗の腕に包まれた。
彗が抱き締めたわけでも、あたしが抱き締めたわけでもなく、ただ自然に、そうなった気がした。
……あったかい。
この行為に、理由なんてないんだ。
ただなんとなく、触れたくて。温もりを感じたくて。今が幸せなんだと、心に刻みたくて。
あたしが泣いてる理由を、彗は分かっているのかもしれない。
「……彗」
「うん」
「いつか、許せる日が来るかな」
刻まれた傷は消えない。
体も心もボロボロになって。
でも、それでも、あたしたちは生きていかなきゃならない。
生きることを、諦めちゃいけない。



