「お前、うろうろしてねえで家帰れよ」
『……帰ってるから今電話してるんじゃん。ひとりで歩くのが暇で』
「あーそうですか」
昨晩もどうせ街にいたんだろうなと頭の隅で思い、携帯灰皿の中に煙草を捨てる。
「暫く会えねぇけど、その間よろしく」
『りょうかーい。同居始めて高校入学も控えて、忙しいもんね? 任せてよ』
クスクスと笑う声はまだ高く、明るい。嫌味のひとつも言えるんだから、それなりに元気ならそれでいい。
「なんかあったら電話しろ」
『うん。……ねぇ、祠稀?』
返事をせずに言葉の続きを待つ俺のことなんて、よく知ってるはずなのに。ためらいの沈黙が、不安を表してる気がした。
「何……大丈夫だから言えよ」
少しの間を経て、またおかしそうな笑い声が耳に届く。
……違うか。おかしいんじゃなくて、嬉しいんだな。



