「……、」


ズッと鼻を啜り、震え出した携帯をカバンから取り出すと、祠稀からの電話だった。


……あたし、何分こんなところに座ってたんだろ。


ひと呼吸置いてから、受話ボタンを押す。


「もしもし? 祠稀?」

『有須ー。お前どこいんだよー』

「ごめんね、まだ部室で……」

『マジで。何、片付けとか?』


あたしは携帯を耳に当てたまま、ゆっくり立ち上がる。


「うん。今日はちょっと、多くて」

『大丈夫か?』

「うん……大丈夫だよ」


すぐに向かうと伝えて、祠稀との電話を終えた。


……大丈夫……大丈夫。


そう言い聞かせないと、立っていられない。涙を、堪えきれない。


あたしが自らの幸せを望んでしまったせいで、大切なものが危険にさらされる。そんなこと、思いもしなかった。