「有須が悩むだろうなってことは、分かってたからね」
微笑んでいても、あたしの頬を包む両手には力が込められる。
「でも、俺はあんまり気が長くないんだ」
早く答えを出さないと、誰かを傷付ける。そう、笑顔が言っている。
するりと両手が離れ、大雅先輩は大きく1歩下がった。月明かりを背にしているからか、大雅先輩の顔が見えにくい。
それが、恐怖心を煽る。
「色好い返事を、期待してるよ」
黙っていると言うより、放心しているあたしに、また手が伸びて来た。
「まずは……彗くん、かな?」
一瞬だけあたしの頬を撫でた手はすぐに下ろされ、大雅先輩はポケットに手を突っ込んで……きっと、笑った。
「……どうして?」
蚊の鳴くような声が、立ち去ろとした大雅先輩の足を止める。振り向いた大雅先輩へ目を向けると、いつもの優しい笑顔をしていた。



