「つーかおい、彗」
いきなり名前を呼ばれて驚くと、バルコニーから出てきた祠稀が俺の前まで歩み寄ってくる。
「男同士、よろしく? まあなんでもいいけど、仲良くしよーな」
悪戯っ子みたいに口の端を上げる祠稀は拳を差し出してくるから、首をひねった。
「……なんで?」
「は?」
「あははっ! 違う違う! 分かってないだけ! 彗、ぶつけるんだよ」
拳を差し出された意味が分からなかった俺は、凪のジェスチャーで理解する。
なんでそんなことをするのかは分からないけど、ひとまず唖然としている祠稀の拳に自分の拳をコツンとぶつけた。
「……よろしく? ……祠稀」
「おあ……いや、おい凪。もしかして彗って天然?」
「ははっ! 多分ねー」
……天然って。違うと思う。
「ふーん? まあ……お前らみたいなのが同居人、いいね。楽しくなりそうじゃん」
悪戯に笑う祠稀に凪も俺も一瞬止まって、すぐに笑顔を返した。
祠稀と同じように、楽しくなると思えたから。
きっと眠れない夜すら、心地良い夜に変えるくらいに。



