僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅰ



「つーかおい、彗」


いきなり名前を呼ばれて驚くと、バルコニーから出てきた祠稀が俺の前まで歩み寄ってくる。


「男同士、よろしく? まあなんでもいいけど、仲良くしよーな」


悪戯っ子みたいに口の端を上げる祠稀は拳を差し出してくるから、首をひねった。


「……なんで?」

「は?」

「あははっ! 違う違う! 分かってないだけ! 彗、ぶつけるんだよ」


拳を差し出された意味が分からなかった俺は、凪のジェスチャーで理解する。


なんでそんなことをするのかは分からないけど、ひとまず唖然としている祠稀の拳に自分の拳をコツンとぶつけた。


「……よろしく? ……祠稀」

「おあ……いや、おい凪。もしかして彗って天然?」

「ははっ! 多分ねー」


……天然って。違うと思う。


「ふーん? まあ……お前らみたいなのが同居人、いいね。楽しくなりそうじゃん」


悪戯に笑う祠稀に凪も俺も一瞬止まって、すぐに笑顔を返した。


祠稀と同じように、楽しくなると思えたから。



きっと眠れない夜すら、心地良い夜に変えるくらいに。