「彗だって越してきたばっかで、欲しいものあるでしょ?」
「ああ……うん、そうかも」
「じゃあ早く荷物置いてっ! ちゃっちゃと行くよ!」
そう言うと、彗は自分の部屋になるドアを開けて中に入った。あたしはそれを見てから、ふたつのグラスを持って彗の部屋に向かう。
「ねぇ彗。業者さん夕方に来るんだよね? なにをどこに置くとか、考えときなね?」
持ってきたトランクを開けていた彗に緑茶を差し出す。彗は「ありがと」と受け取りながら考えるように眉を寄せた。
「……お任せでいいよ」
「ふはっ! めんどくさがりは相変わらずだね」
おかしくなって笑うと、彗も垂れ目がちな瞳を細める。
昔の面影がある笑顔は、必然的に胸をジンワリと熱くさせた。
懐かしいという気持ち以外に、人の温かさを久しぶりに感じられたから。
「……彗」
呼べば、応える瞳。手を伸ばせば届く距離にある、温もり。
「身長どのくらい?」
「……さぁ。180だったかな」
なんでいきなりそんな質問?とでも思っているのか、首を傾げる彗にあたしはまた笑った。
はっきりと感じるんだ。
きっと今日から、毎日が楽しくなるって。



