「彗がしてたことを、知らなかったわけじゃないでしょう」
再び怒りに満ちた顔で、颯輔さんは言い放つ。
「う……っ! そんな醜いものを見せるなっ! 服を直せ!」
「知ってましたよね? 彗がリストカットしてたのを。知っていたのに、何も言わなかった。……見た途端その態度ですか」
「自分の手首を切るなど……頭がイカレてるんじゃないのか!!」
ズキンと、胸が痛む。やっぱり醜いんだと、また思ってしまいそうだけど。俺はぎゅっと瞼を強く瞑って、必死に凪たちの笑顔を思い浮かべた。
――大丈夫、大丈夫。俺は、独りじゃない。
颯輔さんでさえ、俺がしていることを知っても責めなかった。軽蔑しなかった。気味悪がったりせず、こうして会いにきてくれた。
「……あなた達が訴えられる理由は、そうですね……」
俺は必ず、あの家に帰るんだ。
ふっと瞼を開けると、颯輔さんの明朗な声が耳に届く。
「リストカットするまで追い詰められてた彗への育児放棄、精神的虐待。さらに金をせびるなど、彗への暴言により精神的苦痛。慰謝料が高くなるばかりですね? 喜んで裁判しますよ」
「っ黙れ黙れ!! 貴様さえいなければ私に金が入ったものを……! 自傷などするならば早く両親のもとへ行ったらどうだっ!」
ギロリと俺を睨むおじさんに、ぷちんと何かが切れた。俺が死んでも、俺が持ってるお金は全部、颯輔さんにあげるよ。
「――お望み通りに」
俺はジャケットのポケットから出したものを、すでに何も纏ってない手首に突きつけた。



