「あんま無理すんなよ」

「え?」


教室の後ろのドアを開けた祠稀を見上げると、あたしの腕から取り上げたお茶の缶で、額を小突かれた。


「眉間にシワ寄せすぎ。老けんぞ」


ニヤッと笑う祠稀が掲げる缶を、乱暴に押し返す。


「失礼だな! 老けないわよ!」


意味深な微笑みをたたえる祠稀は教室に入っていき、机に突っ伏していた彗の頭を小突いた。のそりと起き上った彗に飲み物を手渡す祠稀と、それを笑顔で受け取る彗。


「つーか彗。お前は毎日毎日、寝癖がひでぇな」

「……気にならない程度でしょ?」

「いや、人の話聞け! ひどい寝癖だって言ってんだよ!」


そんな会話をするふたりは、特に元気がないわけでもなく、いつも通りだった。


高校に入学して、もう1ヵ月以上経つ。まだ、1ヵ月かな……。


あたしは眉頭をさすりながら、ふたりが話す様子をしばらく見つめていた。


……無理すんなよ、だって。祠稀って案外、気配り上手?


そんなことを考えながら、あたしも彗と祠稀のもとへ歩み寄った。