◆Side:凪
──コンッ。
夜8時。有須と祠稀が見守る中、あたしは彗の部屋のドアをノックした。願うように、ドアに額をくっつける。
「……彗」
目の前にある木製のドアが、決して誰も通さない鉄のドアに感じた。それでもあたしは呼ぶ。大切な大切な、ひとりの男の子の名前を。
「……彗」
返事をして。
開けて。拒まないで。
あたしは彗を救いたいんじゃないの。
「彗……っ」
一緒に、生きていきたいだけだよ。
―――…コン……。
この家が静寂じゃなかったら絶対に聞こえなかった、弱々しい音。入っていいよ、の合図。彗からの、SOS。
「……」
振り向くと、微かに聞こえたらしい祠稀と有須が頷いてくれた。
あたしは恐る恐るドアの取っ手に手を掛ける。大きく息を吸ってから、取っ手を下げた。



