あたしは自分の腹部辺りの服を握って、彗の背中を見つめることしかできない。
彗は未だにおじさんに掴まれた左手首を、震える右手で握っていた。
……彗。
ねぇ……彗。
呼びかけたいのに、言葉は棘を含んでるみたいに痛くて、喉奥に引っかかるだけ。滲む涙すらも邪魔をして、声を発させてくれない。
おじさんが言った言葉の数々が、頭の中をぐるぐると回る。
家賃を払ってた。中3の時から、家に帰る回数が減った。ネカフェで寝泊まりをしてた。冬に、院長と出逢った。一時的に保護されていた。
そんな話は、彗から聞いてない。
ただ、親戚の家を転々としてたって……遺産を狙われてたって……。
それだけでも苦しかったはずなのに、それだけじゃなかったの?
ねぇ、彗――…。
「……っ!」
あたしの眼に飛び込んできたものが、足を動かした。
自分の左手首を、震える右手で握っていた彗。その右手の隙間から見える袖に、痛々しいものが見えてしまったから。



