「……凪だと?」


おじさんは目を見開いて、あたしをジッと見ている。


今さら。面識があるわけじゃないから仕方ないんだろうけど。


「……夢虹凪。名前くらいは知ってますよね? どうもはじめまして」


おじさんとおばさんは顔を見合わせてから、フッとバカにした笑みを零した。どうせそんなことだろうとは思ったけど、いい気分にはならない。


「まさかこんな所で逢うとは……君が、狂人の娘か」

「――っ!」


その言葉にあたしと同じくらい腹を立てたのは、彗だった。


「颯輔さんをバカにするな」


隣を見上げれば、彗は険をまとった瞳でおじさんを睨んでいる。


「アンタらなんかよりずっと、何百倍も、立派な人だ」

「……、」


少し、泣きそうになった。


彗はいつもそうやって、あたしの父を、親戚の間で狂人扱いされる父を、庇ってくれるんだ。昔も、今も……。


あたしと彗にしか分からないこの気持ちがあるだけで、怒りは収まった。