震える手を口元から離して、ギュッと瞼を強く瞑った。そのまま顔を両手で覆って、俯く。


――大丈夫、大丈夫。落ち着いて。


数秒か数十秒か分からないけど、あたしはそればかり繰り返して、乱れる息や心拍数を無理矢理にでも落ち着かせた。


「……っ、はぁ……」


恐る恐る顔を上げて、もう一度目の前の鏡に映る自分を見つめる。脳裏に浮かんだ姿とは違う自分にほっとしたけれど、まだ少し胸が痛んだ。


……汚い。


ううん。汚くなんか、ない。


思考を振り切るように頭を左右に振って、しっかりと部屋着に着替えた。立ち上がり、鏡の前で確認する。


決して大きいとは言えない小柄な体に、サイズがピッタリの部屋着。あたしは腹部のあたりを掴んで、唇を結ぶ。


……どうしてかな。今、確かに幸せなのに……あたしはまだ、傷だらけだ。


体も、心も。まだ癒えてないの?


そっと指先で鏡に触れても、答えは返ってこない。



「有須ーっ? できたよー」


リビングから凪の声がして、ハッと我に返る。


――バカ。何考えてたの、あたし。


パンッと両手で軽く頬を叩き、リビングに繋がるドアを開けた。


「お腹空いたっ!」


そう言ったあたしを、凪たちは優しい目をして笑ってくれる。



――見えない心のずっとずっと奥で、過去の傷が、疼いたような気がした。


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